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広島地方裁判所 昭和33年(行)11号 判決

原告 株式会社マルシン

被告 広島国税局長

訴訟代理人 川本権祐 外一〇名

主文

被告が昭和三三年八月二三日付で原告に対してなした原告の昭和二九年一月一日より同年一二月三一日までの事業年度の法人税に関し、所得金額を金一九六、四六七円とする旨の審査決定および同三〇年一月一日より同年一二月三一日までの事業年度の法人税に関し、所得金額を金二九三、三六七円とする旨の審査決定のうち金一五八、四四四円を超える部分はいずれもこれを取消す。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は三分し、その二を被告の、その余を原告の各負担とする。

事実

第一、当事者の求める裁判

原告

被告が昭和三三年八月二三日付をもつて原告に対してなした原告の昭和二八年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度の法人税に関する青色申告承認取消に対する審査請求を棄却する旨の決定を取消す。

被告が原告の昭和二九年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度分法人税に関し、前同日付をもつてなした所得金額を金一九六、四六七円とする旨の審査決定を取消す。

被告が原告の昭和三〇年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度分法人税に関し、前同日付をもつてなした所得金額を金二九三、三六七円とする旨の審査決定を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

被告

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二、請求の原因

一、原告は衣料品、雑貨、小間物卸小売業を営むことを目的とする会社である。原告は西大寺税務署長から法人税法第二五条により青色申告書をもつて法人税の確定申告をすることの承認をえていたものであるが、法人税の確定申告として昭和二八年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度(以下昭和二八年度という。)は金九七五、二七一円の欠損を生じ、昭和二九年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度(以下昭和二九年度という。)は金一、五七一、二三六円の欠損を生じ、昭和三〇年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度(以下昭和三〇年度という。)は金一、三八六、一〇〇円の欠損を生じた旨を同税務署長に青色申告した。

二、これに対し同税務署長は昭和三二年二月二五日、原告に対し昭和二八年度青色申告承認を取消す旨の処分をするとともに、昭和二八年度の所得金額を金二一一、六九三円、法人税額を金八八、八七〇円とする更正処分、昭和二九年度の所得金額を金三一五、五九九円、法人税額を金一三二、五一〇円とする更正処分、昭和三〇年度の所得金額を金五九四、三九五円、法人税額を金二一二、七二〇円とする更正処分をしてその旨原告に通知した。

三、そこで原告は右各処分を不服として昭和三二年三月二三日同税務署長に対し再調査の請求をしたが、右請求は審査請求とみなされ、被告は右審査請求に対し昭和三三年八月二三日付をもつて、昭和二八年度の青色申告承認の取消に対する審査請求を棄却し、昭和二八年度分法人税の更正処分の全部を取消す旨の決定、昭和二九年度分法人税の更正処分の一部を取消し、所得金額を金一九六、四六七円、法人税額を金八二、四八〇円とする旨の決定、昭和三〇年度分法人税の更正処分の一部を取消し、所得金額を金二九三、三六七円、法人税額を金一〇二、六五〇円とする旨の決定をなし、その頃原告に対しその旨通知した。

四、しかし原告の昭和二八年度分の帳簿等については何ら不実の記載はないから、被告がなした昭和二八年度の青色申告承認取消に対する審査請求を棄却する旨の決定は違法であり、又原告の昭和二九年度、三〇年度の所得金額は昭和二九年度については金五九五、九六五円の欠損、昭和三〇年度については金一八五、一三六円であつて、右審査決定による変更後の金額はいずれも過大であるから右各審査決定は違法である。

よつて原告は被告に対し右各決定の取消を求める。

第三、請求原因に対する答弁及び被告の主張

請求原因一、二、三は認める。請求原因四は争う。

被告がなした本件各決定はいずれも次の理由で適法である。

一、昭和二八年度分青色申告承認取消に関する審査請求に対する決定について、

(一)  (金銭出納簿)

原告の同年度金銭出納簿は日々の取引日付順に整然とかつ明りように記帳されておらず帳簿残高も赤字となる部分があり措信しえない。即ち、

(1) 原告会社西大寺営業所の金銭出納簿の三月三一日、一二月三一日、同岡山営業所の金銭出納簿の六月二五日、一二月三一日の記帳をみるとそれぞれ数ケ月前の現金取引の記帳もれを多数追加記帳している。

(2) 原告会社本店の金銭出納簿の一二月三一日の記帳をみると収入金が金一四五、〇〇〇円、支出が六口計金四五、三五〇円、差引残高金一、八九一円である。従つてその前日たる一二月三〇日現在の残高は金九七、七五九円の赤字となる。右の如く日日の帳簿残高を計算してみると一〇月五日以後一二月三〇日までは全て赤字となる。現金残高が赤字となることはありえない。

(3) 原告会社新町営業所の金銭出納簿の一〇月三〇日の残高は金一〇、〇〇〇円であり、一一月七日の残高も金一〇、〇〇〇円とある。

然しその間の収支を差引計算すると一一月七日の残高は金九、〇〇〇円とならねばならぬ。

その後の残高誤りも次の通りである。

(年月日)   (原告記帳額)  (被告計算額)

二八・一一・二〇 一〇、〇〇〇円 九、〇〇〇円

〃  〃  三〇 一〇、〇〇〇円 九、〇〇〇円

〃  一二・一四 ――――――― 九、六三〇円

〃  〃  二六 ――――――― 九、六二五円

〃  〃  三一 一〇、〇〇〇円 九、六二五円

(二)  (取引先関係)

原告の取引先を調査した結果原告の帳簿は措信しえない。即ち、

(1) 訴外清水株式会社は原告との取引において、昭和二八年一一月二六日手形金九一、五八〇円を受領している。更に三菱銀行岡山支店の原告当座預金の記帳をみると同年一二月一五日に金九一、五八〇円の為替手形の支払として預金が払出されている。

然るに原告の総勘定元帳の支払手形の口座、同当座預金の口座、同買掛金の口座、及び仕入元帳の清水株式会社の口座、いずれの記帳をみても右取引の記帳はない。

(2) 訴外株式会社亀井商店は原告との取引において昭和二八年一一月二七日手形金八五、二六五円の受取りがあり、三菱銀行岡山支店の原告当座預金の記帳によると同年一二月二五日に金八五、二六五円の為替手形の支払のため預金の払出がある。

然るに原告の総勘定元帳の支払手形の口座、同当座預金の口座、同買掛金の口座及び仕入元帳の株式会社亀井商店の口座いずれにも右取引の記帳はない。

(3) 右訴外会社は原告より昭和二八年四月二八日手形金六〇、〇〇〇円又同年一〇月二〇日に金四二、八〇〇円を受領している。然るに原告の総勘定元帳の支払手形の口座、同買掛金の口座、及び仕入元帳の右訴外会社の口座いずれをみても右取引の記帳はない。

(4) 原告の仕入元帳の右訴外会社の口座の記帳及び岡山営業所の現金出納簿の記帳、総勘定元帳の買掛金の口座の記帳によると、昭和二八年三月一七日右訴外会社に対し金七、八三〇円現金で支払つているが、右訴外会社においては右記帳はなされてない。

(三)  (銀行預金関係)

原告の取引銀行たる三菱銀行の記帳と原告の記帳が符合しない点がある。即ち、

(1) 原告の記帳によると、同行岡山支店の当座預金を昭和二八年八月二七日に金三八六、〇〇〇円引出している。然るに銀行側には右取引の記帳はない。

(2) 右岡山支店の記帳によると、昭和二八年九月二五日原告の当座預金に金七九、〇六三円の預入、同年九月二五日に金二四、五七〇円、同年五月一日に金六〇、〇〇〇円の為替手形の支払のそれぞれ記帳がある。然るに原告側には右いずれの取引も記帳されていない。

西大寺信用金庫の記帳と原告の記帳は符合しない点がある。即ち、

(1) 昭和二八年八月一八日から同月三〇日の間の右金庫の預入に関する記帳と原告の記帳を対比させると次のとおり甚しく異つている。

(日時) (西大寺信用金庫の記帳) (原告の記帳)

八・一八  ―――――――  一〇〇、〇〇〇円

〃     ―――――――    六、〇〇〇円

八・一九   六、〇〇〇円   ―――――――

〃     四四、五〇七円   ―――――――

八・二二 一一二、〇九一円   ―――――――

八・二六  五〇、〇〇〇円  五〇〇、〇〇〇円

八・三一  六〇、〇〇〇円   ―――――――

〃     六五、九九三円   ―――――――

〃    一四六、五七〇円  一四六、五七〇円

(2) 原告の総勘定元帳の右金庫に対する当座預金の口座の記帳によると、一二月三一日「通帳照合により預入額誤謬発見訂正一六三、一一八円八〇銭」とある。かかる記帳では何月何日のいかなる取引の記帳洩れを訂正したものか判明しないのみならず、又年度中の取引について記帳洩れの多数あることを表わしている。

(四)  (借入金)

(1) 原告の総勘定元帳借入金の口座によると昭和二八年八月一八日に西大寺信用金庫より金一〇〇、〇〇〇円借入れており又同帳当座預金の口座には同日金一〇〇、〇〇〇円入金となつている。然るに西大寺信用金庫の原告に対する貸付金の記帳によると同日に金一〇〇、〇〇〇円借入金の返済があつたことになつており、又同金庫の原告当座預金に関する記帳によると同日金一〇〇、〇〇〇円の預金が払出されている。

(2) 借入金利子の支払について法人と個人の経理は区別されていない。即ち、

原告記帳によると昭和二八年一二月三一日現在の原告会社の借入金総額は金一、二四〇、〇〇〇円である。然るに原告が期末に未経過利子を計算している元本の合計額は金一、九九〇、〇〇〇円である。差引金七五〇、〇〇〇円については個人借入金について利子を支払つている。

(五)  (その他)

(1) 総勘定元帳当座預金(千代田銀行)の口座の一二月三一日の記帳

(2) 総勘定元帳支払手形の口座の一二月三一日の記帳

(3) 総勘定元帳買掛金の口座の一二月三一日の記帳

右いずれの記帳も実際の取引と記帳の順が甚しく前後している。

以上の通り原告は取引について、整然と且つ明りように記帳していないので、(法人税法第二五条第七項第一号(昭和三二年改正前)同法施行細則第一二条)青色申告承認取消は適法であり、右に対する審査請求を棄却した決定は適法である。

二、昭和二九年度分法人税の審査決定について、

昭和二九年度の所得金額を金一九六、四六七円とする審査決定は適法であり、その細目は別紙一の通りである。

(一)  売上金二三、六七九、二七一円

A 原告が店頭において現金売した際における経理は、販売品目毎に販売価格を明細に記入するという方法をとつていなかつたので、総売上の大半を占める現金小売部分についてその売上が如何なる状態で販売されたかが全く不明であり且つ原告の備付帳簿は次の通り粗漏杜撰で信ぴよう性が乏しかつたので原告の帳簿書類を否認して推計計算した。

(1) 金銭出納簿は取引を日付順に整然と記帳せず甚しきは数ケ月前の現金の出入を記入している。例えば、

(a) 本町営業所の昭和二九年六月三〇日、同年一二月三一日の各記帳

(b) 新町営業所の昭和二九年四月一日の記帳

(c) 岡山営業所の昭和二九年五月一日の記帳

(2) 金銭出納簿の残高が赤字となることがある。例えば、

(a) 新町営業所の二月分の残高

(b) 本町営業所の八、九、一〇月の各月末の残高(原告自ら残高に赤字を計上している。)

(3) 三菱銀行岡山支店の当座預金の出入について銀行と原告の記帳は次の通りの不合致がある。

(日時)  (三菱銀行記帳)  (日時)   (原告記帳)

(円)              (円)

四・三〇 二三、三一〇 支払       ―――――――

七・二〇 七〇、〇九〇 〃        ―――――――

――――――――――――――  三・一〇 一五一、四〇七 支払

――――――――――――――  五・三〇  二四、五七〇 支払

―――――――――――――― 一二・三一 一一三、八三〇 〃

――――――――――――――   〃    二八、四八二 〃

――――――――――――――   〃    六八、四二五 〃

――――――――――――――   〃    四〇、〇〇〇 〃

―――――――――――――― 一二・三一  九五、〇〇〇 〃

――――――――――――――   〃   一一八、七五〇 〃

B 被告のとつた推計計算方法

仕入金額+期首棚卸額-期末棚卸額=売上原価

21,066,195+21,066,195+86,326-4,334,759=20,506,249

(当期仕入高+原告脱ろう分)(期首棚卸高)(加工賃)(期末棚卸高)(売上原価)

売上原価÷原価率=売上金額(但し1-売買差益率=原価率)

20,506,249÷0.866=23,679,271

(I) 仕入金額金二一、〇六六、一九五円

被告が原告の三菱銀行岡山支店の当座取引を調査したところ、広島屋商店金六九、二一五円、千代田繊維株式会社金九七、八七〇円計金一六七、〇八五円の支払事実が確認された。

右は原告の帳簿には記帳されていなかつたので脱ろう分として、原告申告額金二〇、八九九、一一〇円に加算した。

(II) 売買差益率

被告は原告が卸、委託、小売販売の各販売形態をとつていることからまずそれぞれの売買差益率を調査した。ところで小売については、被告は、原告が前記の通り現金売は品目別に数量及び販売単価等を全く記載せず、単に販売金額の合計のみを記載しているにすぎず、他方掛売については売掛帳に品目別に販売数量及び販売単価を記載していたので、被告は売掛帳を基礎として売買差益率を算出した。調査の結果は卸売〇、〇九六、委託〇、〇九五、小売〇、一五二であつた。

そうして原告の販売状態に最も適したる原価率を求めるため卸、委託、小売の各取引比率をそれぞれの原価率に乗じて平均原価率を算出した。その計算方法は次の通りである。(取引比率の基礎となつた売上額は原告の帳簿による)

(取引比率)

区分 当期原告売上額 調査原価率  推計原価 取引比率

卸売   5,489,940 ×(1-0.096)= 4,962,905 25.5%

委託   1,715,185 ×(1-0.095)= 1,552,242  7.9%

小売  15,496,004 ×(1-0.152)=13,140,611 66.8%

(平均原価率)

区分  原価率      取引比率

卸売 (1-0.096)×0.253=0.228712

委託 (1-0.095)×0.079=0.071495

小売 (1-0.152)×0.668=0.566464

計………平均原価率     0.866671

以上の通り算出された平均原価率(〇、八六六)は、被告が所得金額を推計する際に通常適用するものとして定めた所得標準率(業況中庸と認められる業者の実額調査により算出したもの)とか法人の効率表に定めた売買差益率(広島国税局管内の同業者のうち業況中庸でしかも単一事業を営む法人を選択して調査したものの算術的平均値)に比しても、又岡山地区の同業他法人の売買差益率と比較しても原告に有利であつて、決して不当なものでない。

(二)  減価償却 金九〇、八二二円

前期事業年度において西大寺税務署長が否認した

新町営業所等の改築費金一六八、〇二七円(原告は修繕費として経理)に対応する減価償却費金一八、六二五円をすすんで認容し、これを原告の申告額である金七二、一九七円に加算した。

三、昭和三〇年度分法人税審査決定について

昭和三〇年度の所得金額を金二九三、三六七円とした審査決定は適法であり、その細目は別紙二の通りである。

(一)  売上 金二五、六一七、四六四円

(A) 原告の現金の管理状況及び帳簿書類は前年度と同様正確に記帳されておらず次の通りである。よつて被告の帳簿書類を否認して推計計算した。

(1) 金銭出納簿は取引を日付順に整然と記帳せず又数ケ月前の現金の出入を記帳している。

(a) 本町営業所の昭和三〇年二月二八日の記帳は新町営業所からの一月、二月分の回送金を一括記帳している。

(b) 本町営業所における一月、二月中の預金の引出及び預入はすべて三月二一日に一括記帳している。

(c) 本町営業所においては二月五日以後四月一〇日まで一日金一、〇〇〇円あて西大寺信用金庫普通預金に預入れられているにかかわらず六月三〇日に一括記帳している。

(d) 本町営業所においては三月一〇日に預金を引出しているにかかわらず一二月三一日に記帳している。

(e) 本町営業所においては九月中の中国銀行に対する普通預金の出入を一二月三一日の取引の如くに記帳している。

(f) 新町営業所では二月、三月中に西大寺信用金庫当座預金に預入れているにかかわらず三月三一日の取引の如くに記帳している。

(g) 岡山営業所では八月一日以後一一月九日までの三菱銀行の当座預金の引出が一二月四日、同月三一日に一括記帳されている。

(2) 新町営業所では金銭出納簿に日々の取引を整然と記帳せず、又日々の残高が赤字となることがある。

(a) 岡崎槌太郎よりの三月一四日の金七〇、〇〇〇円の仮受金は三月三一日に記帳されている。

(b) 一二月三日の白神足袋外一名の買掛金金二四、五四〇円は一二月二七日に記帳されている。

(c) 一月分の記帳に関し、六日、二九日、三〇日の現金残高はそれぞれ赤字となる。

(B) 被告の推計計算方法

被告の推計計算方法、売買差益率の算出方法は前年度と同じである。

22,635,404 + 88,770 + 4,334,759 - 5,002,296 = 22,056,637

(当期仕入高)(加工賃)(期首棚卸高)(期末棚卸高)(売上原価)

22,056,637 ÷ 0.861 = 25,917,464

(売上原価) (原価率)(売上金額)

被告算出の売買差益率は、卸売〇、〇六七、委託〇、〇七七、小売〇、一六二である。

(取引比率)

区分 当期原告売上額 調査原価率  推計原価  取引比率

卸売   3,639,173 ×(1-0.067)= 3,395,348  15.5%

委託   3,592,192 ×(1-0.077)= 3,315,593  15.2%

小売  18,251,176 ×(1-0.168)=15,184,978  69.3%

(平均原価率)

区分   原価率  取引比率

卸売 (1-0.067)× 0.155 = 0.144615

委託 (1-0.077)× 0.152 = 0.140296

小売 (1-0.168)× 0.693 = 0.576576

計……………平均原価率    0.861487

(二)  修繕費 金一〇一、六九七円

原告は西店開業にあたり借用建物の改築を行い、右改築費金七八、〇〇〇円を修繕費として損金処理をした。被告はこれを否認し、この否認額からこれに対応する本年度減価償却費金二、九二五円と昭和二八年度分新町営業所店舗改築費金一六八、〇二七円に対応する減価償却費金一五、一二二円との合計額金一八、〇四七円を控除した金五九、九五三円を原告の申告額金一六一、六五〇円から控除したものである。

(三)  減価償却 金一二五、六六六円

原告の左記資産に対する当期の償却不足額は金二、六三四円であるが、前期から繰越した償却超過額が金一九、二三四円あるから、その中から今期償却不足額金二、六三四円を認容し、原告の申告額金一二三、〇三二円に加算した。

種類   器具及び備品

構造用途 商品販売用のもの

細目   その他

耐用年数 八年

第四、被告の主張に対する原告の認否及び反ぱく

一、昭和二八年度分青色申告承認取消に関する審査決定について

(一)  (金銭出納簿)

金銭出納簿が整然とかつ明りように記載されてないとの点は否認するが、赤字となる部分があることは認める。

(1) 追加記帳していることは認める。

むしろ追加記帳あるがために原告の帳簿は正確である。原告は月末、中間、期末決算期において照合是正している。

(2) 赤字となることは否認する。

被告主張の赤字は、被告が一〇月五日本町営業所よりの回送金の是正分を見落したことによるものである。

(3) 否認する。

(二)  (取引先関係)

(1)、(2)および(3)のうち金六〇、〇〇〇円については、それぞれ当該期日に記帳されていないことは認める。但し右は翌年にくりこしてすべて計上している。

(3)のうち金四二、八〇〇円を昭和二八年一〇月二〇日亀井商店に支払つたことはない。

(4)不知

(三)  (銀行預金関係)

三菱銀行関係

(1)認める。但し金五〇、〇〇〇円は金五〇〇、〇〇〇円の誤りである。

右は為替手形の払出金、通知入金、受取手形の取立入金等期末照合に於て遂一調査しこれを合計額で是正計上したものである。

(2)のうち昭和二八年九月二五日の二四、五七〇円及び同年五月一日の金六〇、〇〇〇円については認める。右は取引決済が翌年にくりこされているので預金口座も翌年にくりこした。

西大寺信用金庫関係

(1)は争う。 (2)は認める。

(四)  (借入金)

(1)は争う。 (2)は認める。

(五)  (その他)

(3)については、中間又は期末に照合是正したもので、脱ろうではない。

以上のとおりであり、結局原告の意思と被告の見方との相違に帰着する。被告の主張は一時的現象をみて非難するものにすぎず、最終的にみれば原告は正しい数字を計上しているのであるから、実質的には原告の備付帳簿書類の記帳態度は法人税法施行細則第一二条に違反しない。

二、昭和二九年度法人税審査決定について

別紙一のうち、売上、仕入、償却費、当期利益金の各項目の金額については争うが、その余の項目の金額はこれを認める。

売上は金二二、七〇一、一二九円、仕入は金二〇、八九九、一一〇円、償却費は金七二、一九七円である。

(一)  売上

(A) 原告の備付帳簿書類にあやまりはない。

原告は備付帳簿のもとになる原始記録即ち、仕入原票、掛売原票、レジスターテープをすべて保存しているのに、被告はかかる原始記録を一さい調査せずに推計計算したのは違法である。

(1)のうち(b)については原告は現実に一月二五日に西大寺信用金庫に預入れたものではない。これは同日同金庫で他人の預金があやまつて原告の口座に記入されたので、話合いのうえ、預金額を四月一日に原告から右の他人に支払い一月二五日の記帳をそのまま生かしたものである。

(2)のうち(a)は争う。

(3)の不合致は認める。

右不合致はいずれも是正記帳であるからである。是正によつて正しいものになつている。

(B) 被告のとつた推計計算の方法のうち、

(I) 仕入金額に関して、広島屋商店に対して金六九、二一五円、千代田繊維株式会社に対して金九七、八七〇円それぞれ支払つた事実は認めるが脱ろうしてはいない。

(II) 被告算出の売買差益率は争う。右は次の如き瑕疵がある。即ち、

(イ) 調査商品が販売商品の全体に対して占める割合が加味されておらず、量的調査が全然欠けている。

(ロ) 被告は通常利益率に影響を及ぼす処分販売のあることを見逃している。

(ハ) 原告の販売した商品のごく一部分の差益率しか調査されていない。原告の小売は現金売と掛売とに分けられるがその比率は九三対七位である。被告の調査したのは右七のうちの一部分である。

(二)  減価償却

原告が前期事業年度において西大寺税務署長より被告主張の如き計算の否認をうけたことは否認する。

仮りに被告主張の如き否認があつたとしても、右は本件審査決定によつて当然取消された。

更に被告が新町営業所の改築費として計上するものの中には仮装支出や仮装償却資産がある。

三、昭和三〇年度法人税審査決定について

別表二のうち、売上、修繕費、償却費、当期利益金の項目の各項目の金額は争うけれども、その余の項目の金額はこれを認める。

売上は金二五、四八二、五四一円、修繕費は金一六一、六五〇円、償却費は金一二三、〇三二円である。

(一)  売上

(A) 原告の備付帳簿書類にあやまりはない。

(1)について、被告主張の各日付に一括記帳してあることは認めるが右は是正記帳である。

(2)のうち、

(a)および(b)の各日付に記帳したことは認める。

右是正記帳により帳簿と実際とが一致した。

(c)のうち、一月六日、同月二九日の残高が赤字になることは争う。一月六日の赤字は一月七日に支払つた竹内大八に対する買掛金の領収書の日付が誤つて一月六日となつたので、その領収書の日付にあわせて記帳したため、たまたま六日に赤字となつたもので実際の支払日である七日には赤字とはなつていない。同月二九日の差引残高については、被告は同月三一日是正の同月一六日売上金額金一五、七三〇円の入金を見落したことにより赤字を主張するものである。

(B) 被告のとつた推計計算方法について、売買差益率は争う。右は前年度分について原告が主張したと同じ瑕疵を有する。

(二)  修繕費について、西店開業にあたり借用建物の修繕を行い金七八、〇〇〇円を支出したことは認める。

但し右は天井、雨戸等の修理をなし、ペンキラツカーで店舗の塗替をしたもので常時修繕的なものであるから、店舗の新設或いは改築の如き資本的支出とはいえない。

仮りに右修理が資本的支出であるとしても、右金七八、〇〇〇円金部を否認するならともかく、これに対応する本年度償却費と昭和二八年度新町営業所店舗改築費金一六八、〇二七円に対する本年度償却費と言う性質種目の異るものの合計額を控除した金五九、九五三円を否認することは税法の解釈を誤つたものである。

(三)  減価償却について、被告主張の資産は被告の創設した仮装固定資産であるから、被告主張の如き償却不足額はない。

第五、証拠関係〈省略〉

理由

一、原告が衣料品小間物卸小売業を営むことを目的とする会社であること、原告が西大寺税務署長より青色申告書をもつて法人税の確定申告することの承認をえていたものであること、原告が昭和二八年度は金九七五、二七一円の欠損を、昭和二九年度は金一、五七一、二三六円の欠損を、昭和三〇年度は金一三、八一六、一〇〇円の欠損を各生じた旨それぞれ同税務署長に申告したこと、同税務署長は昭和三二年二月二五日付をもつて原告に対し右青色申告の承認を取消す旨の処分ならびに昭和二八年度の所得金額を金二一一、六九三円法人税額を金八八、八七〇円、昭和二九年度の所得金額を金三一五、五九九円法人税額を金一三二、五一〇円、昭和三〇年度の所得金額を金五九四、三九五円法人税額を金二一二、七二〇円と各更正する旨原告に通知して来たこと、右に対して原告は同税務署長に昭和三二年三月二三日再調査請求し、右は審査請求とみなされたこと、被告は右審査請求に対し昭和三三年八月二三日付をもつて、昭和二八年度の青色申告承認取消処分に対する審査請求は棄却し、昭和二八年度分の更正処分は全部取消す、昭和二九年度法人税の更正処分の一部を取消し所得金額金一九六、四六七円法人税金八二、四八〇円とする、昭和三〇年度分法人税の更正処分を一部取消し所得金額金二九三、三六七円法人税額金一〇二、六五〇円とする旨の各決定をなしその頃原告にその旨通知したことは当事者間に争いはない。

二、そこでまず昭和二八年度の青色申告承認取消処分の当否について判断する。

(一)  成立に争いのない甲第二七号証と証人能美初枝、同野島久夫(第一回)の証言及び原告代表者本人尋問の結果によれば、原告は西大寺市中野に本店を持ち、営業所としては岡山市に岡山営業所、西大寺市に本町営業所、本町営業所西店および新町営業所の四店を持つており、岡山営業所ではメリヤス布帛の卸売を、本町営業所、新町営業所では洋品雑貨布帛製品の小売を、本町営業所西店では毛糸パラソルの各小売販売を行つていたこと、本店では経理のみを行い昭和二八年頃から実際上は新町営業所の二階に事務所をもつていたこと、岡山営業所では現金売、掛売はともに複写の仕切書を使つており、右仕切書は何日かためて一括して本店に送られていたこと、西大寺市の三店は現金売については金銭登録機を使つて記入しており、掛売については複写の仕切書を使つて販売しており、各営業所は営業に関する仕切書、レジスターテープ、売上メモ、入金伝票、振替伝票などをすべて本店にまわしてくることになつていたこと、本店では原告会社の社長である岡崎槌太郎が主になつて事務員である能美初枝と二人で原告会社の経理にたずさわり、右送られて来た資料にもとづいて能美初枝は売掛元帳と仕入元帳を、岡崎槌太郎は金銭出納簿と総勘定元帳を作成していたこと、各営業所ではその他には何ら帳簿を作つていなかつたことが各認められ、右認定を覆すにたる証拠はない。

(二)  そこで原告の帳簿の内容についてみるに前掲事実欄第三の一の被告の主張(一)の(1)、(二)の(1)、(2)および(3)のうち六〇、〇〇〇円の受領の記帳の洩れ、(三)のうち三菱銀行に関する(1)(但し金額については五〇〇、〇〇〇円)および(2)のうち二四、五七〇円、六〇、〇〇〇円の各為替手形の支払の記帳洩れ、西大寺信用金庫に関する(2)、(四)の(2)については当事者間に争いはなく、(五)については原告は明らかに争わないのでこれを自白したものとみなす。

次に、成立に争いのない乙第一号証の三によれば、金銭出納簿上本店においては一二月三一日の収支は収入一四五、〇〇〇円、支出四五、三五〇円、差引残高一、八九一円であるから、計算上その前日である一二月三〇日には九七、七五九円の赤字となり、更に一〇月五日以後一二月三〇日まで全て赤字となることが認められる。

原告は被告主張の赤字の主たる原因は、被告が一〇月五日本町営業所より本店への一四五、〇〇〇円の回送金の是正分を見落したことによる旨主張するけれども、検証の結果と証人光信政の証言を総合すれば、金銭出納簿中本店及び本町営業所の右一二月三一日の回送金の追加記帳について「一〇月五日」の記載は早くとも西大寺税務署長の青色申告承認取消処分後に記入されたものと認められるのみならず、かりに右是正を認めるとしても被告主張の赤字が全く解消する訳ではないから、右記帳は到底これを正確なものということはできない。

(三)  ところで、納税義務者の自主的申告により租税債務を確定する申告納税制度の普及の為には納税義務者がそれによつて自己の所得を算定しうる正確な帳簿と記録を備えつけることが基本的且つ不可欠の要件であるので、その前段階としてまず納税義務者に帳簿書類を完備させる為に青色申告制度は法規の定めるところに従い誠実且つ信頼性のある記帳を約した納税義務者には青色申告書を提出することを認め、種々の特典を認めたものである。かかる制度の目的よりすれば青色申告法人の備付け帳簿書類の記載はそれのみによつて企業の成績の真実を把握出来る程度に内容が正確であり、形式において整然かつ明りようでなければならない。

そこで原告の帳簿書類についてみるに、前掲(一)、(二)の当事者間に争いのない事実及び認定事実に成立に争いのない甲第七号証の二の記載内容及び弁論の全趣旨を合せ考えると、その帳簿書類は杜撰で、脱ろうが多く、現金出納簿に赤字が続出したり又期末には銀行の作成した帳簿との照合の上多数の是正や追加をしたり、又当該年度の取引が帳簿上翌年にくりこして経理される様なことが行われていたことが認められる。

してみると、青色申告法人に要求される前記の如き備付け帳簿書類に関する要件につき、原告会社の帳簿書類がこれを充足するものとは到底認めがたいというべきである。原告は是正ないし追加記帳によるも最終的に正しい数字が出ればよいと主張するようであるが、是正追加も程度の問題であり、かつその是正追加は遅くとも当該事業年度内においてなされるべきで、これを翌年度においてなすことは許されないと解されるので、右主張によつては前記判断を動かすことはできない。

そうすれば本件青色申告承認取消処分は適法であり、右に対する審査請求を棄却した被告の決定に何ら違法はない。

三、つづいて昭和二九年度及び同三〇年度の各法人税審査決定の当否について判断する。

(一)  原告の営業収支に関する当事者双方の主張を対照すれば右決定の当否はまず第一に右各年度における原告の売上金額の計算にかかるものというべきであるところ、被告は原告の帳簿は信ぴよう性が乏しいので推計により売上金額を算定したと主張するのであるが、右の如く推計の方法によつたことの当否はしばらく措くとして、推計の方法はそれ自体として合理性を有するものでなければならないから、まず被告の採つた推計方法が合理性を有するか否かについて検討する。

被告の主張によれば、被告は右売上金額を次の方式、即ち、

仕入金額+期首棚卸額-期末棚卸額=売上原価

売上原価÷原価率=売上金額(原価率=1-売買差益率)

によつて算出したものであり、右算出方法の基礎となる売買差益率ないし原価率については、被告はまず原告の売掛元帳の記載にもとづいて卸売、委託、小売の各販売部門毎に売買差益率ひいて原価率を算出し、ついで右各原価率を別に右帳簿によつて計算した右各販売部門別の売上金額に夫々乗じて各推計原価を算出し、その比較によつて各販売部門の取引比率を決定した上、前記各原価率に各取引比率を乗じたものを総合して売上の平均原価率を算定しこれを前記方式における原価率として適用したものであるから、右売買差益率ないし原価率、そしてこれにもとずく前記推計方式が合理的なものといいうるかどうかについて考えてみる。

成立に争いのない甲第一四号証、第二九ないし第三五号証(各枝番全部)と証人野島久夫(第一、二回)、同能美初枝の各証言及び原告代表者本人尋問の結果を総合すると、原告会社の販売部門で小売の占める割合は約七割であり(このことは被告もほぼ認めている)、小売の中で現金売の占める割合は九割以上に達していたこと、原告は岡山県下で同種商品を一番安く売ることをモツトーとして掲げ、平素は正札の大体一割引位例外的に一割五分ないし二割引で小売していたが、年に七回位は処分販売いわゆる投売を行い、その値引率は大体正札の二割ないし三割であり、時に五割に達する場合もあつたこと、投売については一切掛売はしていなかつたこと、現金売については売上帳には日々一括して現金売として記帳せられるのみで、他に店頭販売の分にはレジスターテープ、出張販売の分には売上メモ等が作成されたが、売上商品の種目数量を明らかにするものは保存されてなかつたこと、被告は小売の売買差益率を決定するために、売上元帳に記載された掛売の項目から無作為抽出法によつて抽出した商品につき、その売上価額と別に仕入元帳、仕入伝票等により認定した仕入価額と比較計算したものであること、当時西大寺市及びその附近において原告と規模、営業方法等に於て類似する同業者はなかつたこと等の事実が認められ、右認定を覆すにたる証拠はない。

右認定の事実によれば、被告は小売における売買差益率の決定について無作為抽出法により抽出した一部掛売商品をその調査の資料としたものであるが、かりに無作為抽出法を採用したこと自体は非難すべきことでないとしても、一般に無作為抽出法による抽出が客観的妥当性を有するためにはその調査の対象からできるだけ広範囲に抽出をなすことが必要であると解されるに拘わらず、調査対象である小売全体の中掛売は一割にも満たず、その九割以上を占める現金売は抽出の範囲から除外せられたのであるから、右抽出方法は原理的に既に背馳するものがあるといえるのみならず、原告の取扱う商品も品目によりその差益率及び取扱数量に較差のあることは容易に推測せられるところ、現金売と掛売とにおいて商品別の取引比率が同一であるとも断じがたい(それが同一であると認める証拠もない)から、右抽出方法の合理性は極めて疑わしいということができる。しかも、前記認定によれば、現金売の中には二、三割から時として五割の値引による処分販売が相当量含まれているのであるが、抽出範囲の掛売には処分販売が含まれていないというのであるから、このことを小売中に占める現金売の前記割合と彼此総合勘案するときには、右抽出方法の不合理性は到底容認しがたいものがあるといわねばならない。

してみると、右の抽出方法によつて抽出された資料を調査した結果決定された被告主張の小売における売買差益率は採用すべからざる不合理なものというべく、ひいて右小売の差益率を一資料(そのウエイトは前記の如き総売上中に占める小売の比率の大きさからみて決定的である)として算定された被告主張の平均原価率も同様に不合理なものというほかはない。

被告は右平均原価率は、そのいわゆる所得標準率ないし法人の効率表に定められた売買差益率、又は岡山地区の同業他法人の売買差益率に比して原告に有利であると主張するが、前認定のとおり当時岡山地区で原告に類似の同業他法人は存しなかつたのであるからこれを比較することはできないし、また右所得標準率ないし効率表による差益率は、被告自らがこれによりえないとして前示方法によつて原価率を算定したものであることは証人野島久夫の証言(第一、第二回)によつて認められるから、単にそれが右所得標準率等に比して原告に有利であるということ丈ではその合理性を主張することはできない。

そうすると、右平均原価率を用いて前記売上算定方式により算出した原告の昭和二九、三〇年度の各売上金額はいずれも不当たるを免れない。

ちなみに、被告は原告の帳簿には信ぴよう力なしとしてこれを否認しながら、一方においては推計の基礎として売上元帳の卸売、掛小売の記載、仕入元帳の仕入の記載を資料とし、殊に被告が信ぴよう性のないことを強調する現金売の記載についても前記平均原価率を算出するための資料である小売部門の取引比率の算定にあたつてはこれを利用していると認められるのであつて、その根本的態度において矛盾なしとすることはできない。

(二)  以上の通り昭和二九年度、同三〇年度について、被告のなした売上金額の推計は結局不当であるけれども、原告は右各年について、売上を金二二、七〇一、一二九円、金二五、四八二、五四一円の限度においてこれを自認して争わないところである。そうしてその余については被告主張の右両年度の各収支計算書のうち仕入(二九年度のみ)修繕費(三〇年度のみ)償却費当期利益金の項目以外の金額については当事者間に争いはない。

よつて右の限度で各年度の所得金額を算出するに、昭和二九年度については、原告の争う仕入、減価償却の額はいずれも被告主張のそれの方が多いので、その当否の判断をするまでもなく、いずれにしても昭和二九年度の利益金すなわち所得は皆無とならざるをえない。したがつて、これと異なる被告の同年度についての本件審査決定は不当として取消を免れない。

(三)  続いて昭和三〇年度の利益金について判断するに、修繕費について、本町営業所西店の開業に際し、借用建物の改築を行い、これに金七八、〇〇〇円の支出をしたことについては当事者間に争いはない。被告は右を資本的支出として考慮するに対し、原告は右は常時修繕的なものであるから全額損金計算すべきであると主張するが、右は支店の開設に際して支出された点に鑑みれば資本的支出とみなすべきであり修繕費として計上すべきではない。このことは開業に際し店舖を新築した場合との権衡からしてもかく考えるのが相当である。

そして、右金七八、〇〇〇円を、原告の主張の額である金一六一、六五〇円から控除した金八三、六五〇円の限度に於ては修繕費につき当事者間に争いはないところ、被告の主張額は金一〇一、六九七円であるから、金八三、六五〇円を超えて右に達するまでの額については、原告の利益になるところであり、右は原告の主張する資本的支出に対する減価償却費を修繕費の名目で計上したものであるとしても、右被告の主張額を原告の支出として認めるのが相当である。

又減価償却費については、被告主張の額(右修繕費に計上したものは含まず)は原告主張の額よりも多いのであるから、被告の主張額を支出として認めるのが相当である。

してみると、昭和三〇年度の原告の営業収支については、売上金額について原告の主張によるほか、すべて被告の主張によることになるから、これによつて計上すると原告の当期利益金すなわち所得金額は金一五八、四四四円となり、右の限度で被告の審査決定は正当であるが、その余は不当として取消を免れない。

四、以上の通りであるから、原告の本訴請求中昭和二八年度の青色申告承認取消に対する審査請求を棄却する旨の決定の取消を求める部分は理由がないので棄却することとし、昭和二九年度および同三〇年度の各法人税に関し所得金額をそれぞれ金一九六、四六七円、金二九三、三六七円とする旨の各審査決定の取消を求める部分については、前者については全部理由があるので認容することとし、後者については金一五八、四四四円を超える部分については理由があるので認容し、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条、第九二条本文を適用して、主文の通り判決する。

(裁判官 胡田勲 永松昭次郎 笹本淳子)

(別紙省略)

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